民間でのリハビリの話 その③  〜リスクのある運動処方について〜

リハビリ

白波百合は休憩の後に、ふぅとため息を漏らす。なんだかこの前からモヤモヤが止まらない。目の前の高橋美奈にはバレてしまっているっすけど、モヤモヤの正体が掴めないから坪井咲夜や上代葉月にも相談できないっすと肩を落とす。

高橋 美奈
高橋 美奈

あらあら?もうお疲れかしら?

白波 百合
白波 百合

大丈夫っす!それで運動処方には疾患の理解も必要って事は嫌ってほど分かったすけど、やっぱり大変っすね!

高橋 美奈
高橋 美奈

そうよー!もう大変!でもこう言った健康教室に通うのは、そもそも通えるだけの身体機能が合ったりするからね。だからと言って油断は禁物!目に見えないものほど怖い事は多いわ。

上代 葉月
上代 葉月

そうですね・・・でもジムに通う高齢の方も増えましたよね!それだけみんな健康に気を使う時代になったって事ですよね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

いまやテレビを見てても健康番組の雨あられやもんなぁ。ウチらも勉強になる事も多い反面、それだけみんな詳しくなるから勉強で負けてはられへんな!

そうっす!と白波は返事をする。自分の事で悩む人は病院以外にも沢山いらっしゃる。だけども自分はまだ目の前の事で精一杯だと思う。悔しいけれど

高橋 美奈
高橋 美奈

そうね。でも運動によって生命予後や健康寿命が延びる事は確かだし、疾患に罹患し難くなるからそれはもう奨励されてしかるべきだわ!でもその反面、目の前の人の一つの疾患にだけ囚われてはダメ。それは臨床でもそう。目に見えない隠された疾患に気が付けるようになる。そのためにはまぁ時間は掛かるけど、これからはしっかり学んでおく必要があると私は思うわ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

確かになぁ。体力の衰えって言ってもそれが唯の運動不足か、加齢か、呼吸器疾患、心疾患が原因かでは話は大分違ってくるしなぁ。

上代 葉月
上代 葉月

それにサルコペニアといった社会的な背景をベースに運動や食事といた栄養の低下もまたあるしね。そういった人ほどしっかりとした運動処方も必要になるからまた問題は難しいよね。

白波 百合
白波 百合

確かにっす。もし呼吸器疾患、特にCOPDでは運動はもちろんっすけど呼吸練習も大切っす。一見深呼吸の練習を進めるかもっすけど、どちらかというと息を吐けなくなる事が問題っすから、しっかり息を吐く練習をしなきゃだめっすから、疾患に特異的なトレーニングも必要っすね。

高橋 美奈
高橋 美奈

それも一つの特異性の原理ね。息を吐ききる前に息を吸うと出しきれない空気は肺に溜まったままだから、そのまま肺胞を広げてひどい時には動的肺過膨張といった状態を引き起こすわ。まぁそういう人はそもそも民間の健康教室やジムにすら通えない事も多いけどね。

自分は正直、先輩達の様に重症患者は見る事は得意でないと改めてこの前感じた。急変した患者様を目の前にすると病態の理解の前に、そもそも心を殺す事は出来ない。その患者様や家族の心に引っ張られてしまう。

高橋 美奈
高橋 美奈

それに心疾患は確かめないと分からない事も多いの。そしてそれに気が付かないままジムに通って朝方気がついたら大動脈瘤が進行していただなんて事も昔経験したわ。だから心疾患の有無はしっかりと問診で確かめておく。大動脈の弁や僧帽弁の狭窄は、極論すると手術しないと完治はしない訳だからそのまま運動していてはいずれは心不全となるリスクもあるわ。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

つまりは病歴に沿った詳しい問診という事やな。でもそこでそれを念頭に置いた運動処方を行えれば健康寿命や生命予後は伸びる訳やろ?

上代 葉月
上代 葉月

確かにね。目的が体力の向上!アンチエイジング!だとしても元々持っている疾患によっては方法が全然違ってくるもんね!

白波 百合
白波 百合

それに動悸を感じていてもそれが運動したから、とか体力が衰えているからって人もいるっすよね。不整脈が出ていたとしてもそれは触れないと自覚しない人もいるっす。ここでも触診は必要っすよね。もちろんその不整脈が危険なものかは、12誘導心電図を取らないと分からない事も多いっすから難し所っすけど・・・

プロとして心を殺して、重症化した患者様にも適切な運動処方を行う。先輩なら多分そうするとは思う。きっと目の前の美奈さんも、それがプロって事っすよね・・・と上目使いで高橋を見ると何もかも見透かしたような笑みを浮かべた。

高橋 美奈
高橋 美奈

それに呼吸器や心疾患だけでもなくて、例えば腎不全だって過度な運動で進行するかもしれないし、体力の衰えと並行して糖尿病を患っている人も運動習慣を付けようと頑張ってらっしゃるわ。そこにはもちろん低血糖のリスクや合併症のリスクも伴う。どれほど病態が進んでいるかはやはり専門的な知識や経験もまた必要なの。

上代 葉月
上代 葉月

・・・そうですね。でもやっぱり世間では全ての人が入院する必要なないですし、自分の住み慣れた環境で自分が楽しみながら健康に過ごせる事が一番ですよね!

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なんか姐さんの言いたい事はわかった気がするわ。そうなるためにも、そういう世の中になるためにもそれを指導する人が必要って事やな。そして要求されるのは、基本的な原則に則りつつも、疾患や医療の知識をベースとして多角的に目の前のクライアントを見るのではなく診る事の出来る指導員!って事やろ!

高橋 美奈
高橋 美奈

あらあら!先に言われちゃったわね。そうね。そして少なくとも貴方達はその大切さは知っているようで安心したわ。全く知らないのと少しでも知っている。何度も言うけれどその違いは途方もなく大きいの。

白波 百合
白波 百合

それは十分に分っているつもりっすけど、やっぱり目の前にすると何をして良いか分からない事もまた多いっす・・・

ポツリと零した言葉に白波はハッとする。なんだかこの人の前では、いや先輩の先輩達の前では素直に話してしまう。不思議っすね。と白波は困った様な柔らかい笑みを零す。

高橋 美奈
高橋 美奈

心配しなくても分からないだけで何をするべきかは分かっているじゃない。言葉にまだ出来ないだけで、薫ちゃんなんかよりもずっと!でもこの先いろんな事を学んでいくウチにそれはきっと忘れてしまう事もあるかもしれないけれど、それはずっと大切にしておきなさいな。

白波 百合
白波 百合

自分がっすか・・・?

三人は高橋の目の前で互いの顔を見合わせる。その姿を見て高橋は、んーと大きく伸びをした。

高橋 美奈
高橋 美奈

それにしても世の中はどうなっていくのかしらねぇ。こうやって民間で教室を開いてみてなんだけど、いつまでも今の制度が続くとも限らないし、破綻してしまったら何処にも行けない人も増えるわね。だからこそ変わる必要もあるけど、全てを変えると破綻してしまう。なんて小難しくて生き辛くて楽しい世界なのかしらね。

坪井 咲夜
坪井 咲夜

なんか途方もない話をしてんなー!でも確かに病院の外で運動処方をする人は必要で、それはリスク管理の話で言えば、ある意味病院で働くよりもたくさんの知識や経験がいるって事やな!

上代 葉月
上代 葉月

うん。そうだね。それでもたくさん世の中をどうにかしようとしている人が居る。そう考えると私はまだまだだなーと思うけど、ちょっと嬉しいよね。

白波 百合
白波 百合

そうっすね!あっ今度自分が勉強会する事になって、リスク管理って広い話題なんすけど・・・美奈さんのお話も参考にさせて頂くっす!

もちろん!と高橋は優しい笑みを浮かべる。それは本当のお姉さんの様で、自分達を見つめてくれている。今の自分が出来る事。まだ言葉には出来ない心の奥底の部分。大きく息を吸いながら白波は自分の心の奥に目を向けた。

白波百合のノート 126

・民間での運動処方は必要。これからはもっと!だけどもそれにはリスクもまた付きまとう。

・それでも基本的な医療の知識、問診視診触診を高い水準で行えるなら隠されたリスクにも気がつける。

・自分が何をするべきか、何をしたら良いのか。美奈さんにはそれが見えるのだろうか?

【〜目次〜】

『内科で働くセラピストのお話も随分と進んできました。今まで此処でどんなことを学び、どんな事を感じ、そしてどんなお話を紡いできたのか。本編を更に楽しむためにどうぞ。

【総集編!!】

【これまでの話 その①】

【これまでの話 その② 〜山吹薫の昔の話編〜】

【時間がない人にお勧めのブログまとめシリーズ!】

【ウチ⭐︎セラ! 〜いまさら聞けないリハビリの話〜】

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